【詩】昨日の極点はただの谷
目的地は池
今日が最悪な日なのであれば、
昨日の最悪は、もう悪ではない。
痛みは更新され、過去はただの古い幻覚になる。
思考の底に沈んだ苦しみさえ、
新しい苦しみによって上書きされていく。
空の色が灰に近づくほど、
私は少しだけ安心する。
世界が崩れる速度と、私の呼吸の速度が、
ほぼ一致している気がするから。
誰かが「もう大丈夫」と言った瞬間、
その言葉が新しい不安を産む。
安堵は、悪の芽の形をしている。
光は、いつも不幸の予告のように眩しい。
今日が最悪なら、
昨日の私は、まだ生きやすかったということだ。
明日の最悪は、まだ名もない。
名のないものほど、恐ろしいものはない。
そして私は、
この「最悪の更新」という儀式の中で、
静かに呼吸を繰り返している。
生きていることの代わりに、
悪化していくことを、確かめている。
焼けるような朝が来る。
その朝もまた、
新しい最悪の始まりであることを、
私はもう、知っている。